SPI REPORT

消費者を深く理解したメディアプランニング

読売新聞PR誌「OJO」
消費者を深く理解したメディアプランニング

これまでメディアプランニングには、接触率を中心とした量的データが使われてきた。メディアプランニングには量的データだけでなく、質的データも必要だと語るのは、エスピーアイの小泉秀昭氏だ。消費者の心理や行動を深く理解したメディアプランニングについて聞いた。

――メディアプランニングで質的分析が言われるようになりましたが、質的とは何を指しているのでしょうか。

今まではマス媒体中心のメディアプランニングで量的データが媒体選択の基準になっていましたが、消費者の心理や行動からメディアを見ていこうということです。質的データをメディアプランニングに取り入れる考え方には2つあります。

1つは、消費者の心理を深くとらえた効果を測れる「指標」があるのではないかという考え方。もう1つは、分析の手法やメディアプランのアイデアを見つけていく方法として、質的側面を見ていくという考え方です。要するに、アカウントプランナーが広告クリエイティブでやるようなユニークなコンシューマーインサイトを探すことがメディアプランニングでも方法化できないかということです。われわれ自身も、最終的にはメディアプランニングの質的な要因を加味した分析、あるいは手法の開発を実現したいと考えています。

――これまで、そうした動きはなかった?

リーセンシー理論がそうですね。この理論は多少誤解されていて、広告は消費者に1回届けば十分で、それを継続的にやること、つまり、リーチ最大化の理論のように理解されていますが、実はそうではない。「広告メッセージは、商品を購入しようとしている消費者に対して、最も直接的に機能する」という考え方に基づいた理論です。

どういうことかというと、たとえば、トイレットペーパーが必要もないのに欲しくなる人はいません。その時に広告メッセージを届けてもそれほど効果はない。なくなったときに、はじめて広告のメッセージは効果を持つという考え方です。トイレットペーパーがなくなるタイミングは人それぞれ違いますが、その中で極力リーチを高めることが投資効率を高めることになる。要するに、リーセンシー理論というのは、購入者が本当に欲しくなった、必要だと感じている時にメディアに接触させる。そうしないと効果がないという考え方です。

消費者に近いメディアを探す

――実際に、どうプランニングしていくのですか。

クリエイティブプランニングという方向が、まずあります。今までメディアと考えられていなかったものを広告メディアとして見つけていく方向です。たとえば、ナイキの公園のゴミ箱をバスケットのゴールに見立てたものや、広い芝生に自然の素材を原料にしたビールの広告を描くなどの例がありますが、そういうふうに今までにないユニークなメディアのアイデアを考えていく。アカウントプランニングの手法と同じように質的データをもとに進めていきます。

そのためには、まず、消費者自体を深くとらえ、そこから本当に消費者に届くメディアは何かを考えていく必要がある。具体的には、ターゲットとなる消費者の1日の行動分析から発想していく。消費者がどういう生活をし、どんなメディアとどういう気持ちでいつ接触しているのかなどを深くとらえ、そこから最適なメディアを見つけていくというものです。もう一つは、ブランドの課題から考えていく方法です。たとえば、革新性やユニークさをコンセプトとしたブランドがあった場合に、それを伝えるのに最も良いメディアは何か。ターゲットがブランドの革新性をよりインパクトのある形で感じられるメディアは何か。それは果たして既存のメディアなのか、新しいメディアなのか。もっと広告をターゲットに近づけられるメディアがあるかもしれない。そういうふうに考えていく方向です。この両者を加味することで、本当の意味でのコンシューマーインサイトをとらえたメディアプランニングができると思っています。

広告を「置く」から「近づける」へ

――消費者の行動は、実際に調査するのですか。

IMCやブランド論で「ブランドコンタクト」という考え方がありますが、受け手をターゲットの固まりとしてとらえるのではなくて、1人の人間として、どのような生活を送り、どのような行動をどのような気持ちで送っているのか見ていくというものです。

具体的にエスピーアイでは、The Day in the Lifeという手法を用いています。これは、量的・質的な調査データを基にメディアプランナーが消費者のプロフィルと彼らの1日を日記形式で記述するというものです。たとえば、36歳のサラリーマンで、年収は500万円前後、分譲マンションに住んでいて、家族4人。奥さんの趣味は……というように、ターゲットはどういう人たちなのかを具体的に描いていく。さらに、朝起きてから夜寝るまでのメディア接触も見ていく。まず朝刊に目を通す。あまり時間がないので、話題になるような記事と、娘が来春小学校に入学することもあって、教育や育児に関する記事に目を通すことにしているなど、単にどんなメディアに接触しているかではなく、なぜ接触しているかを含め消費者の心理を深く推察しながら見ていきます。

こういうふうに分析することで、消費者がどういうオケージョンで、どういう気持ちでそのメディアに接しているのかがわかってくる。そうすることで、単に量的な接触データからではなかなか現れてこないメディアの発見や発想を引き出していく。たとえば、洋画を好きな人は英会話学校に行く人が多い。そういう人たちは、外国に行きたい、外の世界に接したいという気持ちが強いからだと思うのですが、それが見えてくれば、英会話学校に洋画のポスターを張るという発想も出てくる。

――広告が本当に効く場所に広告を出す。

今までは、どちらかというと人がたくさんいるところに広告を置く発想だったと思うのです。これからは、ある人の生活の中に広告を近づけていくという発想が必要だと思います。今のメディア状況の中では、広告を「置く」というより「近づける」という発想がないと、消費者に対する伝わり方が薄まってしまって、それほど効果が出ない。しかも、1人に効果が出ないものは、大勢の人にも効果が出ない。ターゲットを個でとらえる時代だと感じています。

質的データは仮説立案が役割

――しかし、やはり広告には多くの人に知らせる役割もあります。

実際のメディアプランニングでは、定量的な要素も加味しています。質的データは、メディアプランニングの発想の基盤や個々のオケージョンの中で、何か光るメディアはないかを探すために使います。その後、必ずコスト効率がいいか量的側面から分析します。質的データは仮説立案の段階で使うものです。

別の言い方をすれば、メディアプランニングをやるには、数字だけではなくて、ブランド全体や消費者を見る必要があるということです。メディアプランナーというと、パソコンに向かって数字を足したり、掛けたりしている人というイメージがありますが、数字だけでは間違う場合がある。

――どういうことですか?

たとえば、年を取っていても若者といっしょにスポーツをし、海外にも積極的に出かけるお年寄りがターゲットのブランドがあったとします。その広告媒体に何がいいか。単に65歳以上が接触するメディアということで、そのCPMだけで選んでしまうと、『壮快』『健康』というような雑誌が上位に出てくる。常識で考えればすぐわかりますが、こうした雑誌は元気なお年寄りよりむしろ、健康になりたい人が読む雑誌です。ところが数字だけ見ていると、それを見落としてしまうことがあるのです。

もし、そのターゲットが、朝起きてスポーツクラブに行くという行動パターンがあるとわかれば、そのブランドを印象づけるには、スポーツクラブが非常に効果的なメディアになるかもしれない。そういうように質的データは、ブランドとのかかわり合いを見つけていくアイデアを出す段階で使っていきます。

――消費者の行動を日記形式で調べるということですが、その中で何か引っかかるものを見つけていくということですか。<>個別の事象をあまり断片的にとらえない方がいいですね。まず全体を読んで、ターゲットがどういう人なのかつかんで、それを発想の基盤にする。そうすると、単に接触データの数字を見てプランニングするのとは違う結果が出てくる。

奇抜なメディアが注目される傾向

――従来のメディアの枠にとらわれずにメディアを発想していくようになった要因は、どの辺にあるのでしょう。

2つの側面があると思います。1つは、広告効果をより厳しく見ていく流れから来ている。本当の意味でどのメディアがどれだけ効果があったのか。たとえば、新聞広告を掲載した時の効果は、他のメディアと比べどうだったのか。マスメディアだけではなく、チラシや屋外広告、インターネットなどの効果も、同じ指標で見るようになった。それをきちんと分析していく必要があるという考え方です。この流れはかなり定着しています。 もう1つは、アカウントプランニングやコンシューマーインサイト論から出てきた考え方ですが、量的な分析だけで果たして十分なのかという疑問が出てきた。新聞の閲読率やテレビのGRPなど、これまでのメディア評価は接触者をベースにした評価のみで動いてきた。しかし、消費者をもう少し深くとらえていかないと、広告目標を十分に達成できないのではないか。たとえば、実際の売り上げに貢献するメディアを考えていったときに、消費者の心をとらえる媒体は、もしかしたら既存メディア以外にもあるかもしれないという発想から出てきた。

 ――新しいメディアの活用は広告主も積極的に取り組んでいる?

あくまで感覚的な話ですが、広告主からよく出るのは、既存のメディアを減らしてインターネットを含めた新しい媒体に出稿したいから、それを証明する方法はないかということです。広告費全体の予算をカットして、いままで通りの効果を上げたい。そうすると、必然的に従来使っていないメディアを活用する発想になっていく。実際はそう簡単にはいかないのですが、ただそういう試みが以前よりは多くなってきたのは事実だと思います。

――しかし、そうすると目新しいメディアだけを選択するという結果になりませんか。

確かに既存メディア以外のメディアでという話になると、どうしても奇抜なものに流れがちですね。話題性のあるものや目を引くメディアを探そうとする。しかし、それは本当の意味でのビッグアイデアや真の消費者インサイトをとらえたアイデアではないと思います。奇抜なアイデア、イコールいいメディアプランニングではない。最近のメディアプランニングは、リーチ中心の量的なものか、逆にクライアントが喜ぶような奇抜なアイデアか、の両極端になっている傾向もありますね。

――質的側面を考慮すると、結果として選ばれるメディアはかなり変わってくるものなのでしょうか。

プランニングの時には既存の枠にとらわれずニュートラルに考えるのが基本ですが、コスト効率を考えていくと、マスメディアが圧倒的に有利なのは確かです。ある一定の目標、たとえば認知を高めたい時や何かメッセージを伝えたい時には、マスメディアは絶対はずせません。業種やカテゴリーによっては、マスメディアだけで十分なものもあります。たとえば菓子は、認知されれば売れる商品です。しかし、耐久消費財やB to Bでは、そういうわけにいかない。その時に、それぞれのメディアの役割が生まれてくる。

酒のディスカウントショップで、ラジオ広告だけでいい結果を得た経験があります。原因をいろいろ考えてみたのですが、恐らく、車に乗って買いものに行く人がディスカウントショップによく行くということだと思います。もちろん、車に乗っている時に耳に入ってきたので、広告が効いたということもある。その購買行動を起こさせたバックグラウンドには、テレビや新聞、雑誌などの広告から得た過去の情報の蓄積があるはずですが、はじめに言ったリーセンシー理論と同じで、最後の一押しが効くのではないかと思います。情報を蓄積させる効果はやはりマスメディアですが、最後の一押しをしてくれるメディアは意外に少ない気がします。

広告効果の要因をニュートラルに分析する

――広告効果の分析は、どのように行っているのですか。

簡単に言えば、何を効果とするかをまず決める。たとえば、売り上げを効果とするなら、その要因として、商品の価格、配荷率、使用したメディアの投下量などをモデル式に入れ、それぞれどのくらい売り上げに貢献したかを見ていくという方法です。要するに、シェア・オブ・マーケット、シェアに対して何が効くかを見ていく。当然ですが、一般的には価格が一番影響(寄与率)が高い。テレビ広告を主に使っているところでも、2番目にテレビではなくチラシが来る時もある。ただ、商品や広告展開、使っている販売経路などによって結果は異なるので一概には言えません。重要なのは、いろいろな要因をニュートラルに分析していくということで、既存メディアを中心に分析していくと、重要な要因が抜けてしまう可能性もあるわけです。

――広告効果の目標は?

最終的にはセールスですが、セールスに至るまでの特定の指標でも分析します。たとえば、ブランドの好意率や認知率を指標にして、それに対してどれぐらい各メディアの効果があったかを分析していく場合もあります。これは何年間か通してみると別の側面も見えてきます。たとえば、商品を投入した1年目はある指標に関しての広告効果は、テレビが圧倒的に良かった。ところが2年目は新聞が非常に良くなって、テレビが効かなくなってきた。初年度は広告にタレントを使ったということもあって認知が非常に高まったのですが、2年目は認知よりも商品理解が重要になった。そういう変化も見えてきます。また、各メディアの効果は、短期的な目的なのか、長期的な目的なのかで大きく違ってきます。短期的な目的で分析すれば、先ほどの例のようにテレビよりもチラシの方がいいという結果も出る。

――広告の長期的効果と短期的効果の分析は使い分けなければいけない?

われわれのところでもワンキャンペーン、俗にいうアロケーションでのメディア配分も行いますが、基本的には1年間の中で、いつ、どのぐらい、何に、どうやってやると効果的か、また実際にどのくらい効果があったかを見ていく。広告の短期的効果も長期的効果も、一定期間見ないと判断できないところがありますね。ただし、基本的には、短期的な効果のないキャンペーンは長期的な効果も期待できないと思っています。また、分析も価格を含めさまざまな要因が大きく影響しますから、それを別にして、広告だけでみていく場合もあります。たとえばブランド構築のために通常とは違う媒体を使わざるを得ないのであれば、その部分は別に評価をする。ケース・バイ・ケースですね。

消費者とブランドの接点で発想する

――プランニングの話に戻りますが、メディアクリエイティブの場合、クリエイターを参加させることはありますか。

今のところはないですね。これはプランニングに対する基本的な考え方の問題ですが、非常にむずかしい質問です。実際に広告会社のアカウントプランナーといっしょにプランニングをやって、非常に刺激を受けた経験があります。ただ、クリエイティブに引っ張られるプランニングにも問題がある。アカウントプランナーにはマーケティング出身ではない人もいて、ユニークな発想をする人もいますが、奇抜な方向に走りがちなところもある。企業の業績にかかわる広告効果をプランニングするメディアプランナーには、バランス感覚が非常に重要です。

――あらゆるものがメディアになりうる今の状況に惑わされているところがある。

そうですね。はじめにも言いましたが、プランニングで質的な部分のプランニングをするときも、消費者側の立場、消費者が生活している中でのメディアの接触を理解した上で、ブランドが伝えたいこととメディアの接点を見つけ、その中で一番最適なメディアを探していかなければいけない。考えてみれば非常にオーソドックスな手法です。しかし、それが今、メディアプランナーに最も求められていることだと思います。

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