SPI REPORT

IV. 戦略的メディアプランニング (つづき)

これまでメディア戦略立案作業において売上等のマーケティング目標を組み込むことは一種タブー視されてきました。ここには大きく2つの点が考えられます。売り上げなどの要因に影響するものは単に広告活動だけではなく、たとえば価格、配荷率、あるいは天候など多くの要因に左右され、その中から広告活動のみを抽出することは大きな誤りを犯すことになり、あくまで広告の目的は、たとえば広告認知などといった広告活動に関連した指標に限定すべきであるといった論旨が中心をなしていたことがあげらます。

またもう一つの要因としては、実際メディア戦略を立案すると考えられる広告会社が、マーケティング目標にまで立ち入ることはすべきでないと考えていたと考えられることです。すなわちそのようなことをすれば、もし自社が行った売り上げ予測が予測通りの結果を得られなかった場合に、取引を打ちきられる可能性があると判断します。そして自社の状況を不利にすると考え、あくまでも広告活動のみに限定し、分析を行ってきたのではないでしょうか。本来であれば広告活動を行う広告主自身がそのような分析を行うべきでしょうし、一部の広告主では既に行っていると考えらます。しかしながら、多くの広告主は広告会社に広告活動の大半を委託しており、十分なメディアに関する知識、および分析ノウハウを有していないことが考えられます。現在わが国においては広告主、メディア、広告会社という3つの組織が広告市場を担っていますが、欧米では、この他に特に第3者組織としての広告活動に関するコンサルティング会社などが存在し、この部分の役割を担っています。

また第一の論点である、売り上げに与える変数の多さによる分析の困難さに関しても、近年、コンピューターの処理速度の進歩と非線型回帰分析などの新しい分析手法の充実により、以前に比べはるかにその精度は高まっています。特に菓子など低関与商品に関しては、十分売り上げなどとも相関が得られる状況です。一方、自動車などの高関与商品に関しては、分析の難しさはありますが、たとえば、未知から認知、そして理解、確信、行動といった一連の流れに沿った形での段階的なモデル分析を行うことによって中間指標を明らかにすることができたり、構造方程式モデル(Structural Equation Modeling)など真の因果関係を見出すことのできる分析手法を用いることで、中間指標として最終のマーケティング目標に最も影響を与える要因、すなわちKPI(Key Performance Indicator)を特定することができます。そしてKPIをメディア戦略の目標として用いることで、本来あるべき、マーケティング目標に連動したメディア目標の設定がなされることになります。これらの高度な戦略的メディアプランにおいてもメディアの目標は、これまでと同じようにリーチ指標であったりするかもしれません。しかしながら、最終目標を見据えた上でのメディア目標を設定できることになるわけです。

現在日本において行われているメディアプランニングにおいて、目標が明確でないことを指摘しました。この点に関し欧米ではかなり重視しています。特にバッググラウンドスタディあるいはシチュエーションアナリシスと呼ばれる背景分析がわが国では十分になされていないことにこの点が係わると考えられます。背景分析として考えられるものとしては、市場分析、ターゲットとなる消費者分析、競合のメディア活動分析、ターゲットの媒体接触分析等でしょう。比較的、ターゲットの媒体接触に関わる分析、すなわち当該ターゲットがどのようなTV番組、雑誌を読むかといった分析はなされます。しかしながら、ターゲットをより深く分析するというようなことは、わが国では、マーケティング部や調査部ではある程度行われるもののメディアプランニングのセクションではあまり多くは行われていないと考えらます。基本的に当該ターゲットの特性を明らかにした一次調査が行われている場合には、それを検討する必要があります。しかし、もしそのような調査が行われていない場合でも二次調査データからもある程度深い分析を行うことはできます。

わが国においては、ビデオリサーチ社がACR調査(Audience and Consumer Report)を実施しています。この調査は主要7地区において12,200サンプルに対して、年一回実施されている日本最大規模のシンジケート調査です。調査内容も、デモグラフィック項目のみならず、日常の生活意識や感性などのサイコグラフィック項目、また200以上の商品の使用・所有実態、また主要4媒体に加え、インターネットやCSなどの接触状況もカバーしており、多くの情報を得ることのできるデータです。残念ながら、欧州のTGI調査等と比較すると、サンプル数、また調査頻度などで劣る点があり、商品によってはサンプル数がかなり少ないといった問題点はあります。しかしながら、これまでこのACR調査はどちらかといえば、メディアに対する接触情報としては使われるものの、ターゲットの分析としては単純に質問ごとのクロス分析にとどまっていると考えらます。これだけの広範囲な内容をカバーしているということもあり、より深い計量的な分析が望まれます。

背景分析を行い、的確なメディアの目標が設定された後には、個別のメディアの戦略が立てられなければなりません。たとえば、ターゲットの定義、媒体の選定、季節戦略、地域戦略、広告ウエイト、などです。わが国では一般的にこの部分に関して、主観的に設定されることがかなり多いと思われます。当然過去の経験に基づいて設定を行うことを完全に否定するものではありません。担当者の経験からは多くの有益な知見が得られます。しかし、時に過去の慣習に影響されたり、政治的な要素が強く働くことで非効率で無駄な広告費を使用していることも多々見受けられます。たとえば、SPI社の分析・研究では、特にトイレタリーグッズのような低価格の消費財において、価格と広告効果に一定の法則があることが明らかになりました。価格がある一定以上に低い場合(自社が特売などで値引きを行っている場合であるが)このときはTVの出稿量を変化させても売上にはほとんど影響がありません。顧客は恐らく、TV広告から値引きの情報を得ているより、店頭において値引きの情報を得ていると考えられます。一方、価格が逆に一定以上に高い場合(競合が特売等を行い相対的に高価格であると消費者が知覚した場合)、この時もまた、TV広告の出稿量はその販売量に影響を与えてこないというものです。値段が安い時と同様、消費者は価格のみに大きく影響を受け、広告の影響を受けないわけです。但し、価格がある幅にあるとき、たとえば、当該商品の場合には470円から480円の間でしたが、そのときに最もTV広告の影響を受けるという結論に至りました(依頼企業との守秘義務の関係上、詳細をここで述べることは差し控える)。

一般的に、価格の弾力性の高いスーパーマーケットで販売されているような商品に限って、特売で大量陳列を行ってもらうためにその時期にTVCMを行うことを提案することが多いですが、これは効率的なメディアの使用という点では有効ではないわけです。これも計量的な分析を行い、得られた知見ですが、わが国においてもこれまで以上に、個別のブランドごとに計量的な分析を行い、それぞれのブランド状況に応じた戦略を立案する時期にあると考えられます。

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