SPI REPORT

欧米のメディアプランニングに関する研究

欧米では比較的、メディアプランニングに関する研究は多く行われてきました。たとえば1959年のZielskeの研究では、広告は一度に大量に行うより、総出稿量が同じであっても間隔を空け少ない量を長い期間に行うほうが忘却率が抑えられるといった研究、また1972年のKrugmanの研究では、広告は3回接触して初めて価値を持つというスリーヒット理論を明らかにしました。近年では、Krugmanらの理論を否定し広告は1回から効果があり、リーチを最大化することが最も効果的であるとしたJonesやEphronのリセンシー理論(Recency theory)の研究などがあります。但し、残念ながら、わが国の実務においては、これらの理論が出されると、それが全てのカテゴリー、ブランドに当てはまるとし、十分な分析、検討なくして用いている例を目にします。Krugmanの理論に関しても、彼が主張したかった点は、3回以上の露出ということよりも、一定以上過度の露出は、効果がないということであり、広告の無駄な部分の指摘でした。またJonesに関しても全てのブランドが1回の露出で良いとは述べていないにもかかわらず、わが国ではその理論の一部を強調し、メディアプランを作成している状態が見受けられます。わが国においても理論の適応性の検証を行うこと、そして個別ブランドごとでの検討を行わなければならないといえるでしょう。

VI.量的分析と質的分析

量的な分析の必要性を述べてきましたが、欧米では調査データの充実、またメディア取引形態の違いなどからもメディアの最適化を目指すオプチマイザーという分析ソフトの開発が進んでいます。ニールセンのエキスパートなどといったものがそれにあたり、わが国でも大手広告会社においては、それに類似するものを開発しています。しかし、量的な分析だけに頼る場合、大きな誤りを起す可能性もはらんでいます。特にわが国ではサンプル数の問題を含むメディアデータの状況から時に現実離れした結果が出る場合も多いという意見も聞かれます。そもそもメディア戦略、あるいはメディアプランというものは、図表4に示したKotlerの購買プロセスの5段階モデルで考えるに、2段階目の「情報探索」に大きく影響を持つもので、情報との接触が起こった後の、「代替案評価」、「購買決定」、「購買事後行動」はより表現戦略に依存しています。したがって、いかにターゲットとなる消費者に対して送り手の情報を接触させるかということが第一に考えられてきました。たとえば、TVメディアにおける視聴率あるいは新聞・雑誌における発行部数といった考え方です。しかしながら、本来メディア戦略の目標は、その上位概念である広告目標またマーケティング目標を満たすもので無ければなりません。広告の送り手、すなわち広告主の目的は自社のTV広告が流された時に、何万人かの人々がテレビの前にいることではなく、その広告によって、自社の商品を好きになってもらったり、買いたくなってもらうことです。しかしながら、現在のメディアプランにおいては、データの不充分さもあり、ターゲットなる消費者への広告接触が重要視されることが多くなっています。たとえばTVメディアのコストは通常視聴率1%をいくらというように決め、視聴率の合計であるGRPによって取引が行われています。したがって、日中の1%でも深夜の1%でも同じ価値を持つことになります。TVメディアの場合、定価表では時間帯別に料金は異なりますが、たとえば夜の7時から11時といったAタイムの価値が高いために全体の中での比率は考慮されます。しかしパーコストと呼ばれる1%あたりのコストは基本的に広告主ごとにきめられており、朝であろうと深夜であろうと同じ価値となります。2003年秋に日本テレビの視聴率操作問題が大きな話題となりましたが、基本的にこの1%あたりのコストでの取引という評価基準しか現在存在していないためにあのような問題が発生したとも言えます。すなわち、視聴率の高ければ放送局に入る収入も多くなります。また視聴率の高い番組を多く抱えている局では、多くの広告主が人気の高い、コスト効率(接触と言うレベルですが)の良い番組に自社の広告を流したがることになるわけです。そこには質的な要因は加味されてきません。製品機能の高さを訴えているような広告がバラエティのかなり低俗な番組の中で流された場合と、ニュース番組や質的に高い番組の中で流された場合では当然受け手の持つ印象は異なるはずです。新聞等のメディアでは情報源効果、すなわち大手の全国区紙に掲載されている広告は、タブロイド版のゴシップ紙に掲載された広告より信頼性が高いと受け取られているといった調査もなされています。しかし、わが国場合、特にTVメディアに関して局側の力が強い売り手市場ということもあり、それを重視したメディアプランはあまり立てられていません。実際、かつて実務で調査を行ったときもOA機器の広告ではバラエティ番組の中で流されているよりニュース番組の中で流されている方が、広告の注目率が高いという結果も得ています。

確かにわが国おいては個人視聴率を機械式に取っている地区は関東と関西に限られるという制約があるものの、より自社のブランドにマッチした番組、自社のターゲットと商品が結びつきやすい番組を選ぶという作業をもっと積極的に行うべきであると思われます。このことは、単に、広告の送り手側が効率の良いコミュニケーションが行えるということだけではなく、必要もない消費者が余分な広告に接触をしないで済むというメリットも含んでいます。以前、ある映画のメディアプランに関して、怪物を扱ったアニメーションであったため、ターゲットをかなり低年齢層の子供とOLとして作成したことがありました。そのときも広告表現そのものを変えたことは当然ですが、残酷なシーンの登場するバージョンを極力子供達に見せないように、また子供っぽいイメージのある表現を極力OLの人達に見せないように配慮し、広告活動を行いました。

ここで特に強調したいのは、現在のメディア戦略立案では大枠のターゲットは決めているものの彼ら・彼女らの行動、興味、ライフスタイル等を十分精査してプランが作成されているかが疑問に感じられることです。メディア戦略において接触を中心とした量的な分析は大変重要ですが、それと同時にターゲットを深く理解するという質的な手法の開発がまだ十分とは言えないと考えられます。近年、コンシューマーインサイト論が着目を集めていますが、メディアプランにおいても消費者のインサイトを発見し、それに沿った形でのメディアプランの立案が望まれます。

VII.まとめ

本論文では、広告コミュニケーション活動において重要な位置づけである、メディア戦略研究への取り組みがこれまで十分なものではなかったと考え、それがどのような要因に起因しているのかを指摘しました。いくつかの要因の中で特に分析に関する方法論を指摘し、今後考えうる、より精緻化されたメディアプラン作成のための計量的な分析の提案を具体例を交え提示しました。そして、今後求められるべきであろう質的分析を組み入れたメディア戦略の立案もあわせて述べました。今後は、より具体的な手法の開発により量的分析と質的分析を融合したメディア戦略立案方法の開発が研究課題と考えられるでしょう。


mediaplan_in_wc.jpg

より詳細な情報をお求めの方は、spiindex@spi-consultants.netまでご連絡下さい。

<本レポートの引用・転載・使用に関する注意事項>

  • 掲載レポートは当社の著作物であり、著作権法により保護されております。 本リリースの引用・転載時には、必ず当社クレジットを明記いただけますようお願い申し上げます。
    (例:株式会社エスピーアイの分析によると…)
  • 記載情報については、弊社による現時点での分析結果・意見であり、こちらを参考にしてのいかなる活動に関しても法的責任を負う事はできません。
一覧ページへ戻る