SPI REPORT

商圏分析

1. 商圏分析とは?

 皆さんは、会社や自宅の周辺で、既存のコンビニエンスストアのすぐ隣に新たにコンビニエンスストアが出店され、「なぜすぐそばにまたコンビニを作るのだろう、立地がよくないのに」とお考えになったことはありませんか。
 「商圏分析」とは、この例のように「実店舗」を持つ形態のビジネスにおいて、その実店舗の「立地」と、「売上」などの成果指標に注目し、その関係性を明らかにしようとするものです。この「関係性」とは、上記の例で言うと「店舗周辺の競合店舗数と売上との関係」ということになります。ここでは、立地に関わる様々なデータを用意し、「売上」を成果指標にして以下の3つを行うケースをご紹介します。

  1. 「立地」と「売上」の関係を明らかにする「モデル」を構築すること。
  2. このモデルを元に、既存の店舗の評価を行うこと。
  3. 同様にモデルを利用し、新規出店予定地の売上予測を行うこと。

2. エスピーアイのアプローチ

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 モデルの大まかな形は、上図の通りです。一般的に「商圏モデル」と呼ばれるアプローチと同様、各店舗の売上を、周辺のデータと店舗の特徴を示すデータで説明しようというものです。ただ、全国にチェーンを展開している場合や業種によっては、店舗によって顧客の属性が大きく異なることがあります。例えば、以下のような状況です。

  1. 顧客のなかに、個人客と法人客が存在している。
  2. 店舗から遠く離れたところ(例:数百キロ以上)から来訪する顧客が多く存在する。

 個人顧客と法人顧客の需要構造が異なるであろうことは容易に想像できますし、また店舗近隣に在住しているか、遠方に在住しているかによっても同様のことがいえます。 また、店舗の観点から見ると、人口密度の高い大都市圏にある店舗と、地方都市にある店舗では立地状況が大きく異なり、商圏の設定に影響を及ぼします。
 例えば、店舗を中心とした同心円距離で商圏を設定した場合、大都市圏では地方都市にくらべて人口密度が高く、それに応じて競合店舗数も多くなりますので、地方都市にある店舗よりも商圏が狭くなることが考えられます。そこで、まず以下のように店舗と顧客のセグメンテーションを行い、その上でセグメントごとにモデルを構築するというアプローチを採用します。 20090601-2.png

3. 商圏の設定

 上記の通り、商圏分析に当たっては「商圏範囲」を設定する必要がありますが、ここでは、商圏に関わるデータ(店舗周辺人口や事業所数)を取得する際に、店舗周辺数百メートルから数十キロメートルまで幅広くデータを取得し、これらから統計的に妥当性の高い距離を選択します。
 つまり、商圏を前もって(主観的に)決めてしまうのではなく、統計手法を用いて客観的な方法で決定するのです。こちらの方が柔軟性が高く、より現実に近いモデルが構築できることが期待できます。例えば、人口では半径1キロメートルが商圏だが、競合店舗の観点では5キロメートル以内が商圏である、というような事象を表すことができるようになります。

4. モデル構築結果

 上以上の事前分析の結果に基づき、モデルを構築します。ここでは、「重回帰分析」という手法をした場合の例にとっています(重回帰分析に関しては、こちらをご参照ください)。
 下図が結果例です。ある店舗セグメントの、売上に対する貢献度を示しています。左図が個人顧客の売上に対する貢献度、右図は法人顧客の売上に対する貢献度をそれぞれ示しています。

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 この例からは、個人顧客の売上に対しては店舗周辺の夜間人口と公共交通の利用者が強く影響すること、また、近隣に競合店舗があると、売上が落ちる、などの知見が得られます。一方、法人顧客の売上に対しては、近隣の昼間人口と公共交通の利用者数が強く影響することがわかります。
 なお、弊社の過去の分析では、70%から80%程度の精度(あてはまり)を確保しています。これは、予測モデルとして、実務的には使用に耐えうるものだと言ってよいと思います。ただし、より精度の高い出店計画を策定するためには、さらに精緻なモデルを目指す必要があります。

5. モデルの利用

 最初にご紹介したとおり、ここでは構築したモデルを使って、①既存の店舗評価と②新規出店予定地の売上予測を行うことを想定しています。
 ①については、実際の売上とモデルによる理論値(モデル上、獲得できるはずの売上)を比較して行います。低い評価を受けた店舗については、個別に調査をし、原因を特定することで、当該店舗のみならず、他の店舗も含めての効率改善に向けた知見を得ることができます。また、②についてはExcel上で簡単に売上予測が行えるツールを作成します。

6. 最後に

 「商圏分析」というと何か特殊な分析であるような印象を受けますが、顧客・店舗のセグメンテーションを行い、そのセグメントごとに売上を指標としてモデルを構築する、というアプローチは通常のマーケティングコミュニケーションに関する分析とそれほど異なるものではないと考えております。
 弊社では、今回ご紹介したものを含め、マーケティングコミュニケーションに関わる事例やノウハウを多く持っております。ご興味、ご関心のある方はお問い合わせください。

参考文献

佐藤栄作, 商圏分析モデルの現状と課題, オペレーションズ・リサーチ, 1997
横山真一郎, 大神田博, 石川佳代, 新規店舗進出プロジェクトにおける商圏分析, プロジェクトマネジメント学会誌, 2000

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